軽井沢の手前で車を停める人が急増中――2026年、廃線跡と名湯が交差する「安中の奥座敷」が旅好きを惹きつける理由

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軽井沢の手前で車を停める人が急増中――2026年、廃線跡と名湯が交差する「安中の奥座敷」が旅好きを惹きつける理由
軽井沢の手前で車を停める人が急増中――2026年、廃線跡と名湯が交差する「安中の奥座敷」が旅好きを惹きつける理由
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碓氷 峠 の 森 公園の朝は、妙義山系の鋭い稜線から吹き降ろす澄んだ冷気と、かすかな森の匂いで静かに幕を開ける。新幹線に乗れば東京から軽井沢までわずか1時間強。スピードと効率が支配する移動の時代にあって、旧信越本線の記憶を抱くこの場所には、まったく異なる時間の流れが息づいている。早朝の駐車場には、トレッキングシューズの紐を締め直すハイカーや、カメラのレンズを拭う鉄道ファンの姿がちらほらと見受けられた。喧騒はない。あるのはただ、谷間に響く野鳥の声と、遠くの沢のせせらぎだけだ。

かつて機関車が喘ぎながら登った急勾配のふもとに位置する碓氷 峠 の 森 公園は、ただの休憩所やレジャー施設という枠組みには到底収まらない。信越本線の横川〜軽井沢間、いわゆる「横軽(よこかる)」が廃止されてから四半世紀以上が過ぎた。しかし2026年の今、この地は単なるノスタルジーの対象から、現代人が失いかけた「旅の歩み」を取り戻す拠点へと鮮やかな変貌を遂げている。あえて峠を越えずにここで立ち止まる。そんな旅人たちの選択には、明確な理由があった。

新緑と紅葉だけじゃない:2026年の旅行者が求める「あえて立ち止まる余白」

オーバーツーリズムに揺れる主要観光地を尻目に、旅のトレンドは「分散」と「深化」へと明確に舵を切った。行列に並び、SNS用の写真を撮って足早に立ち去るだけの休日に、人々は確実に疲弊している。

ここで出会う来訪者たちの表情は驚くほど穏やかだ。広大な芝生広場に腰を下ろし、文庫本を開く単独行の女性。木立の合間を縫うように散策路を歩く老夫婦。誰一人として先を急いでいない。公園全体を包む開放感が、日常で強張った肩の力を自然と抜いていく。観光地化されすぎていない、手つかずの自然と歴史遺産が絶妙なバランスで共存する環境こそ、今の都市生活者がもっとも切望していた空間なのだろう。

レンガ造りの鉄路を歩く――アプトの道とトロッコ列車が紡ぐ時間旅行

公園のすぐ脇を抜ける「アプトの道」は、旧信越本線の廃線跡を整備した遊歩道だ。国の重要文化財に指定されている旧丸山変電所や、美しい4連アーチを描く「めがね橋(碓氷第三橋梁)」へと続くこの道は、土木遺産の枠を超えた屋外ミュージアムそのものと言っていい。

春から秋にかけて運行されるトロッコ列車「シェルパくん」が、ガタゴトと心地よい振動を響かせながら勾配を登っていく。ディーゼルエンジンの唸りと金属が擦れ合う微かな匂い。車窓を流れるのは、かつて鉄道員たちが血汗を流して守り抜いた険しい岩肌と鬱蒼とした木々だ。トンネル内に足を踏み入れると、真夏でも肌を刺すような冷気が立ち込める。ひんやりとした赤レンガの壁面にそっと触れると、100年以上前にこの峠に挑んだ先人たちの熱量が、冷たい感触の奥からじんわりと伝わってくるような錯覚を覚える。

火災を乗り越え進化した名湯「峠の湯」の底力

散策で心地よい疲労を覚えた身体を吸い寄せるのが、公園の中核施設である天然温泉「峠の湯」だ。かつて不慮の火災に見舞われながらも、地域住民と根強いファンの声に支えられて再建を果たしたこの湯処には、幾重もの物語が染み付いている。

露天風呂に浸かると、視界いっぱいに裏妙義の荒々しい岩峰が迫る。無色透明で柔らかな肌触りの湯は、ナトリウム‐炭酸水素塩・塩化物温泉。肌を滑る湯の感触を楽しみながら深く息を吸い込めば、都会の排気ガスで浅くなっていた呼吸が深くなっていくのがわかる。近年サウナブーム以降の「外気浴」スポットとしても再注目されており、山から吹き抜ける天然の冷風を浴びながらの温冷交代浴は、愛好家の間で「峠ととのい」として密かに語り継がれている。

喧騒の軽井沢からわずか数十分、ワーケーションと静寂の隠れ家

リゾート地として洗練を極める軽井沢のブランド力は今なお健在だが、その華やかさの裏にある渋滞や混雑を敬遠する層が、この峠の麓へと流れてきている。車を20〜30分ほど走らせるだけで、喧噪は霧のように消え去り、深い静寂の世界へと切り替わる。

公園周辺のコテージや宿泊施設では、平日にノートPCを開いてリモートワークに励み、夕方から温泉と森の散策を楽しむ滞在型の旅行者が定着した。安定した通信環境さえあれば、仕事の合間に見上げる空はどこまでも広く、聞こえるのは風の音だけ。オンとオフの境界線を曖昧にしながら過ごすこのスタイルは、短期の観光旅行では味わえない贅沢な充足感を与えてくれる。

地元の恵みを味わい尽くす:峠の釜めしだけではない安中ローカルガストロノミー

横川といえば「荻野屋の峠の釜めし」があまりにも有名であり、今なおその益子焼の器に詰まった滋味あふれる味わいは色褪せない。だが、この地の食の魅力はそれだけに留まらない。

公園周辺や安中市内の直売所には、上州の豊かな風土が育んだ朝採れの新鮮な高原野菜や下仁田葱、地元の清らかな水で仕込まれた醤油や味噌が並ぶ。地元の食堂で供される、上州豚を使った香ばしいソースカツ重や、手打ちの田舎そば。気取ったフレンチやイタリアンでは決して代替できない、土地の土と水が直結した無骨で力強い料理の数々が、旅人の胃袋をしっかりと満たしてくれる。

次の週末、国道18号旧道を辿って出会う「失われなかった日本の原風景」

高速道路のインターチェンジを降り、かつての中山道の難所であった国道18号旧道のカーブをいくつも曲がっていく。そのドライブルートそのものが、日常から非日常へと精神を切り替える儀式のように感じられる。

メガソーラーや巨大リゾート開発によって各地の原風景が姿を変えていく現代において、この峠のふもとに残された風景は奇跡的とも言える純度を保っている。急激な変化を拒み、鉄道の記憶と豊かな自然を実直に守り続けてきた安中松井田の地。次の週末、もし行き先に迷っているなら、新幹線の切符を買う手を少し止めて、古い地図を開いてみてほしい。峠を越えてしまう前にある豊かな森と湯が、あなたの訪れを静かに待っている。 (出典: 碓氷 峠 の 森 公園(Yahoo!ニュース)

碓氷 峠 の 森 公園
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